大手ケミカル物流会社が挑む
現場目線から始まるDX推進の第一歩

 NRS株式会社様は、化学品・危険物の国内輸送、国際輸送、倉庫業といったケミカル物流のリーディングカンパニーです。輸送や保管に加えて、タンクコンテナや中型容器等、環境に配慮した輸送容器のリース・レンタル・販売など、多機能な物流サービスをグローバルに展開しています。

この度、NRS様では、全社員をDX人材にするという目標の元、手始めに物流現場に従事する気鋭の人材から20名を選抜し、DX研修の企画に着手しました。その取り組みの中で、研修を企画・実行できるパートナー企業であるネットラーニング株式会社様にご相談され、弊社をご紹介いただきました。NRS様初のDX研修は、NRS様とネットラーニング株式会社様、弊社が一緒になりDXアイデア創造研修を企画・開講し、ボトムアップでの変革に乗り出しました。

本取組みを担当していらっしゃるデジタルデザイン統括部・統括部長の辻穣様に、お話を伺いました。

◆なぜDX研修を必要と感じたのですか?◆

一言でいうと、「現場目線での変革」アイデアが生まれる文化を作りたかったのです。これまで弊社は、IT部門や一部の事業部門の社員を中心に、企画・開発してきました。ところが、それだけだと全体最適化は実現しますが、物流現場の社員一人一人や多様化する顧客のニーズに気づく事ができません。また、社員の多くは、ITで何ができるかについての理解が薄く、本質的なフローの見直しや、顧客のニーズに対してデジタルを使い実現するという発想にならないという現状です。

そうした背景があり、現場の社員を対象に、DXのトレーニングを導入してみてはどうかという発想に至ったのです。現場の社員は、ITリテラシーそのものは高くないけれども、とにかく一度、DXを学んでみてはどうかと考えたのです。全社員がそれぞれの立場で、顧客ニーズや安全、生産性の向上などの様々な課題について、デジタルを使って解決できる会社になれば良いと思っています。

◆なぜ、弊社のDX研修プログラムを選ばれたのでしょうか?◆

DX研修を探していくと、通り一遍の知識を学ぶだけの、メニュー通りの研修ばかりで、どれも「受講生は腹落ちしないだろうな」と感じ、学んだ知識を使おうというところまでいかないのではないかと感じたのです。DXに関する用語や、有名企業の事例を知ったところで、どれも、遠い世界の話のように感じられるのではないかと思いました。

弊社は、法律の規制の厳しい危険品を扱うビジネスを行っており、自動フォークリフトも導入することができない特殊な環境です。そうした、弊社ならではの環境下で、何をすればいいのかということを、社員自らが考えられるようにする。そこまでたどり着かせるためには、もう一歩踏み込んだ通訳が必要と感じたのです。AIやIoTなどの仕組みや事例だけを学ぶのではなく、それらを、毎日行っている業務にまで落とし込む、そんな講座が開講できればと考えました。

我々は、プログラマーを育てたいわけではありません。技術を理解して、アイデアを出して、技術者を使える人間を育てたかったのです。多くの研修会社の提供するプログラムとは、かなりのギャップがあり、マッチしていないと感じました。もちろん、そうしたビジネス目線からの変革が、うまくいくかどうかは今後次第です。ただ、弊社は、現場の社員が、目の前の課題に対し、自分たちで発想できる、そうした会社になりたいと感じ、オンギガンツさんに並走いただきたいと考えたのです。

◆受講された研修プログラムはどのようなものでしたか?◆

オフライン(リアル)での、集合研修の形式で、20名ほどの現場の社員を対象としました。内容としては、「DXとは」といった概要から、AI・IOTなどのテクニカル(技術的)な知識を網羅いただき、物流に関する多くの事例も紹介いただき、何より、わかりやすくいただいたのが印象に残っています。

ワークショップとしても、アイデア出しからプロトタイプの企画・事業化まで、さまざまなものを扱っていただきましたが、意外に心に残っているのは、「AIのプログラムを自分たちで実行させてみる」というものです。これは、物流現場の社員にAIの実装などはハードルが高すぎるし、そこから学びを得るのは無理だろうと思っていました。

ところが、受講生が楽しそうに取り組んでいたのが印象的でした。入力させるデータを自分たちで用意してワードクラウドを作ってみたりすることで色々と発見があったようで、とにかく楽しそうに取り組んでいました(※1)。

(※1)NRS株式会社様にご提供したDX研修プログラムのワークショップの一つで、弊社代表の松田が監修・執筆した書籍「AI・データサイエンティストのための図解で分かる数学プログラミング」から抜粋したAIプログラムを実行して体験してみるというワークです。一橋大学大学院ビジネススクールで文系ビジネスマンを対象にした講義を松田が担当しているなかで開発されたワークであり、まずビジネス現場で起きている課題を、シナリオを通して共有したうえで、実際に使われているプログラムを実行する体験をしてみようというものです。文系ビジネスマンだけでなく、プログラミングの学習者がビジネス現場を知るためにも用いられているワークです。

◆DX研修プログラムを開講した後、どのような変化がありましたか?◆

先ほどお伝えしたように、研修を開講する前は、限られた人間がアイデアを出し、システムを開発し、現場の社員に使ってもらうという流れだったので、アイデアが限定的という課題がありました。IT部門にしてみても、現場からの声があれば、もっと何かできることがあるだろうと感じていました。

研修を終えてみて、受講者は自身の周りで出来るDXに取り組んでいます。進める上での相談が多く来ています。はじめは小さなアイデアでも、アイデアを実現させてみようという機運が生まれたのはとても良いことだと感じています。

これから、DX研修プログラムを受講し、自らのアイデアをカタチにする体験をした彼らが、各部門において、仲間を増やしてくれることを大きく期待しています。研修が終わった後も、アイデアを出す仕掛けを用意するのは、我々の役割です。これまでの、IT部門が考える、目先の、現在の延長だけでなく、自分たちのビジネスのレベルを上げるアイデアが、今後生まれてくることを期待しています。

この取り組みがいつどのように開花するかは、まだわかりません。ですが、毎年毎年やっていくしかないと考えています。とにかく、続けていくことが大事だと考えています。企業文化はそう簡単には変わりませんが、やっていれば必ず成果につながると信じています。

◆今後、御社はどのようにDXを推進していくご予定ですか?◆

グローバルビジネスの拡大に対応する為に、2030年を目途に、グローバル物流システムを刷新させ、グローバルに物流データを繋ぎます(※2)。

また、弊社はケミカル物流会社として物流を担当するだけでなく、デジタルサービスの提供を行います。弊社のお客様である化学品メーカー様や商社様が、もっと便利に物流サービスを使っていただけるようなソフトウェアを提供します。その一環で、提供中のX-Track(クロストラック)は、サプライチェーン全体を可視化し、最適に運用する事をサポートします。併せて、収集したデータを分析することで改善・改良していくDXが期待されています。
https://pf.nrsgr.com/lead/x-track.html

現場の社員一人ひとりには、今回のDX研修で学んだことをきっかけに、この大きな流れにどんどん入ってほしいと思っています。
これからも、DX研修は、ずっと続けていきます。社員一人ひとりが、DXの基本をしっかりと身につけ、例えばお客様へのソリューション提案や、各種改善活動に、デジタルの要素を盛り込んでいける人材になってほしいと思っています。
デジタルを使いこなす社員が普通になったら、我が社はもっとよくなると信じています。

オンギガンツさんが開発された松田式Digi診(デジタル力診断)もとても興味深く、早速、各部門から数名程度の限られた人数ですが、試験的な導入を決めました。松田式Digi診は、一般ビジネスマン向けのDX対応力を測るための試験とのことで、大いに期待しているところです。毎年受診させて点数を上げるために自ら進んでスキルを獲得するような流れを作りたいと思っています。

(※2)経済産業省が2022年3月に発行した「フィジカルインターネット・ロードマップ」のなかで、2030年までに「垂直統合BtoBtoCのSCM(サプライチェーン・マネジメント)」が掲げられており、SCM/ロジスティクスを基軸とする経営戦略への転換を物流業界全体の目標としています。フィジカルインターネット・ロードマップ(2022年3月経済産業省発行)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/physical_internet/pdf/20220308_1.pdf

◆最後に、これからDXに取り組まれる/取り組んでいらっしゃる企業の方々に向けて一言メッセージをお願いします◆

DXは、一日も早く始めること、そして、続けることが何より大事です!「変革」というと、大事のように捉えがちですが、小さなことで構わないのです。巨大戦艦のようなアイデアである必要はありません。身近な課題を解決するアイデアを出し、それに向けて取り組む事、それを通じて失敗した事を次に生かして、新たなアイデアを出すという繰り返しをしていく事で、大きな変革に繋がります。まずは社員がDXを知る、その第一歩から、始めてみると、成果は自ずとついてきます。

インタビュイー
NRS株式会社
デジタルデザイン統括部
統括部長 辻穣様
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